狡い





 クスリに手を伸ばす。
 それは精神安定剤と称しても、まったく問題のな
いもの。手に取った時点で心はおだやかになり、そ
の先の効果への期待で身は震える。

 クスリの中身が、舌先にとろけ出た。
 わかっていた。安定剤は『糖衣』の部分なのだ。
しかも目にしか効かない。


「とぉいくん」
「……なんだよ」
「とぉいくんって、ずるいんだよ」
「なにが。てか、いつも言ってるけどオレをそのき
もい名前で呼ぶなよ。あたま狂ってんじゃねーの」
「ふりかえったくせに。やっぱりずるいよ。とぉい
くん」
「だから、なにがズルいんだよ。うざいな」
「不良品のくせに」
「はあ?」
「どこのクスリ屋さんが作ったんだろう。全然、効
かないじゃん。むしろ、悪化してるじゃん」
「えっ、ちょっとマジで意味わからないんだけど。
薬やってんの、お前」
「やってない。やらせてくれない」
「……なんだよ。どういう意味だよ。ったく」
「とぉいくん」
「なんだよ」
「あたし、やばいかも」


 クスリが畏怖した。


















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公開日  2008.10.23
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